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2026.09.18
【事例】B法律事務所|手書きメモのAI読み取りと書面作成のスキル化
※お客様のご意向により社名は仮名で掲載しています
法律事務所で生成AIを使うとき、多くの先生が気にされるのは「効率化」よりも「依頼者の情報を扱って大丈夫か」という点です。本記事では、B法律事務所で相談時の手書きメモをAIで読み取り、書面作成を「スキル化」した事例を紹介します。取り組みが動き出したきっかけは、提案の伝え方を変えたことでした。担当の灰藤が、伝え方の切り口と、守秘義務を踏まえた運用の考え方をあわせて解説します。
- 業種:法律事務所
- 課題:受任できる案件数が頭打ち。相談時の手書きメモをデータにする手間が大きい
- CES UPの支援:「効率化」ではなく「対応できる仕事が増える」という切り口で提案し、手書きメモのAI読み取りと書面作成のスキル化を支援
- 結果:手書きメモのAI読み取りが実用水準に到達。AIへの修正指示パターンを蓄積し、質の高い初稿を得る運用へ
ご支援前の課題:受任できる案件数の頭打ち
B法律事務所が抱えていたのは、受任できる案件数が頭打ちになっているという課題でした。相談を受け、記録を整理し、書面を作るという一連の流れには手間のかかる作業が多く、新しい案件を受ける余力を生みにくい構造がありました。
中でも負担になっていたのが、相談時に手書きで取ったメモのデータ化です。相談の場では手書きが最も自然で速い一方、後から書面や記録に使うには、読み返して入力し直す必要がありました。
CES UPの切り口:「効率化」ではなく「対応できる仕事が増える」
CES UPがB法律事務所で取った切り口は、「効率化」という言葉を使わず、「対応できる仕事の量が増える」という伝え方に変えることでした。当初、作業時間の削減を軸に提案したものの、その言葉では先生方の関心につながらなかったためです。
法律事務所にとって、作業時間が減ること自体は目的ではありません。大切なのは、依頼者に向き合う時間や、受けられる案件の幅です。同じAI活用でも、「何分短くなるか」ではなく「その時間で何ができるようになるか」に翻訳すると、検討の前提が変わります。
CES UPの支援メソッドでは、これを「伝え方を変える」と呼んでいます。相手の目的に合わせて提案を翻訳することは、ツールの選定と同じくらい導入の成否を左右します。
| 伝え方 | 相手の受け止め方(傾向) |
|---|---|
| 効率化・時短(「作業時間が◯分減ります」) | 今のやり方でも回っている、と感じられやすい |
| 対応できる仕事が増える(「受けられる案件の余力が生まれます」) | 事務所の目的と結びつき、検討の優先度が上がりやすい |
実施したこと:手書きメモの読み取りと書面作成のスキル化
実施したのは、相談時の手書きメモのAI読み取りと、書面作成の「スキル化」の2つです。どちらも、最終的な判断は弁護士が行い、AIには下準備を任せるという役割分担を前提にしています。
1. 手書きメモのAI読み取り
相談時の手書きメモをAIで読み取り、テキストデータにする仕組みを整えました。読み取り精度は9割以上に達し、実務で使える水準で運用できるようになっています。
ただし、9割以上という精度は、残りの誤りを人が確認する前提での数字です。固有名詞や日付、金額など誤りが許されない情報は、原本と照合する手順を残しています。
2. 書面作成の「スキル化」
書面作成では、AIが出した下書きに対して弁護士が行った修正指示をパターンとして蓄積し、次回以降の指示に組み込んでいく「スキル化」に取り組みました。毎回同じ指摘を繰り返すのではなく、事務所の書き方の基準をAIへの指示に積み上げていく方法です。
修正パターンが蓄積されるほど、最初に出てくる初稿の質が上がり、弁護士が手を入れる量が減っていきます。書面の内容に責任を持つのは弁護士であることは変わらず、AIはその下書きを担う位置づけです。
| 取り組み | AIが担う部分 | 弁護士・事務所が担う部分 |
|---|---|---|
| 手書きメモの読み取り | 手書き文字をテキストに変換 | 原本との照合、誤りの修正 |
| 書面作成のスキル化 | 蓄積した指示に沿った初稿の作成 | 修正指示の蓄積、内容の判断と最終確認 |
守秘義務を踏まえた運用で気をつけたいこと
法律事務所で生成AIを使う場合、守秘義務を前提にした運用ルールを先に決めておくことが大切です。弁護士法第23条は、弁護士が職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。以下は一般的な注意点の整理であり、個別の判断については所属弁護士会の指針や専門家の意見を踏まえてご検討ください。
- 依頼者の情報を入力するAIサービスについて、入力データが学習に利用されるか、どこに保存されるかを利用規約や設定で確認する
- 氏名や事件を特定できる情報は、必要がなければ入力しない、または抽象化して入力する
- 個人の端末や個人向けアカウントではなく、事務所として管理できる環境で使う
- AIの出力は必ず弁護士が内容を確認し、そのまま依頼者や裁判所に出さない
- 秘匿性の高い情報を扱う場合、依頼者への説明や同意の要否を事務所として検討する
日本弁護士連合会や各地の弁護士会でも、弁護士業務における生成AIの利用について留意点の検討・公表が進んでいます。実際の運用にあたっては、所属する弁護士会が示している指針をご確認ください。また、個人情報をAIに入力する際の一般的な注意点は、個人情報保護委員会も注意喚起を公表しています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。
結果:現在の状況
B法律事務所では、手書きメモのAI読み取りが精度9割以上の実用的な水準に達し、相談記録のデータ化に使えるようになりました。書面作成では、修正指示のパターンを蓄積していくことで、質の高い初稿を得る運用が形になっています。
本事例では、効果を作業時間などの数値で計測していないため、成果の数字は掲載していません。記事でお伝えしたいのは、数値よりも「どう伝え、どう運用を組んだか」という進め方です。
担当コンサルタントのコメント
B法律事務所の支援で学んだのは、提案の中身が同じでも、言葉ひとつで相手の受け止め方が大きく変わるということです。効率化という言葉は、忙しい専門職ほど「今のやり方で回っている」と感じさせてしまうことがあります。
もう1つは、士業の先生方にとって、AI活用の入り口は「便利さ」ではなく「安心して使えるかどうか」だと考えています。守秘義務や情報管理の論点を後回しにせず、最初に並べてから進めることが、取り組みを前に進める土台になります。
士業や専門職の方にAIを提案する立場の方には、まず「相手が本当に増やしたいものは何か」を聞くことをおすすめします。時間なのか、案件なのか、依頼者と向き合う余裕なのか。その答えに合わせて伝え方を決めると、同じ提案でも届き方が変わります。
今後の取り組み
書面作成のスキル化は、修正パターンが蓄積されるほど効果が高まる取り組みです。書面の種類ごとにパターンを増やしていくこと、そして事務所内で誰が使っても同じ品質の初稿が出る状態を目指すことが、次のステップになります。
- 書面の種類ごとに修正指示のパターンを整理し、蓄積を続ける
- 手書きメモの読み取り結果を確認する手順を、事務所内のルールとして明文化する
- AIツールの利用規約や設定の変更を定期的に確認し、運用ルールを見直す
AIの出力を別のAIで検証する設計は、CES UP自身の議事録を「AIが作り、別のAIが検証する」2段構えで自動化した自社事例でも紹介しています。生成AI導入の全体像は中小企業の生成AI導入 完全ガイドをご覧ください。業務に合わせたツールづくりはAIツール開発のページで紹介しています。
同じ課題を持つ法律事務所・士業の方へ
法律事務所や士業の事務所で生成AIの導入を検討している方から、よくいただく質問をまとめました。
CES UP株式会社 取締役CAIO。生成AIアドバイザー、生成AIコミュニティ「SHIFT AI」認定講師。中小企業・士業・福祉・教育など幅広い業種で、ヒアリング起点のAI研修と、研修後の定着・ツール化までの伴走支援を担当。「AIを使える」から「AIで自分たちの仕組みを作れる」状態をゴールに、現場の業務に合わせた設計を行っている。
CES UP株式会社は、大阪を拠点に中小企業の生成AI導入・AI研修・業務改善ツール開発を支援する会社です。
公開日:2026年9月18日/最終更新日:2026年9月18日